「本屋のあかり」紹介本 『家族じまい』
269 『家族じまい』 桜木紫乃 集英社 1600円
この方、一貫して北海道を舞台にした作品を出し続けていますよね。そして、そんな極寒の地に相応しいちょっと冷めたような妙に達観したような女性が登場する小説。大好きです。
子ども向けに書かれた児童文学ってやっぱり最後は希望や明るい未来が見えるような物語がほとんどで、まぁそれもホッとするし、些細な日常から胸躍る大冒険やドタバタ喜劇で最後はハッピーな気持ちで読んだ後、さぁがんばろー。も良いのだけれど、世の中それだけじゃないよね?世の中のたくさんの数の家族だけ、それぞれの不満・不幸・諦め、そりゃあるだろうね・・・っていう小説も時々読んでみたくなりませんか?
この本は、タイトル通り5人の女性視点による「家族」にまつわる連作短編です。
特に、こんなに上手にそれぞれの女性や家族の問題や個人的な問題が丁寧に書いてあると、その一つ一つに共感とか反感とか全て越えて、「へー、こんな人生。私絶対に送りたくないけど。そうかこんな生き方もあるのね!」って驚いてしまって、私は世の中のことまだまだ知らないなって思いました。まぁでもこれは小説なので実際に存在する人ではないのですが、そのくらいリアルに感じました。
この本の中で私が一番好きなキャラの女性は、娘二人を育てながら、温泉街の旅館でずっと働いていた現在82歳の登美子さんです。「ああ、こんなふうに旦那さんにも娘さんにも捨てられても全然平気で、自分の身を自分でどうにかできる人のまま、最後まで生きていきたいって思いました。素敵、なんか尊敬する。そんな登美子さんの話を少しだけ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この話の中でも出てきた釧路に住む妹夫婦の話がこの本のメインなのですがこれもすごかった。この妹さんという人が要は、ボケてきてしまい二人の娘たちがアタフタして、特に下の娘さんなんか2世代住居まで用意して(お金を払ったのは父親ですけど)住み始めたは良いけど・・・って感じで、とにかくこの家族の場合、父親が問題児で世間的には糖尿病でボケた妻を世話する良いおじいさんに見えるのでしょうけど、まぁ身勝手で横暴で、そのくせ急に落ち込んで反省してみたり・・・とにかくダメ男。それでも周りのお世話になならんぞ!という・・・
周囲を見渡せばたくさんいそうな厄介な老人なんです。読んでると、なんだかボケることってこれまで色々経験した嫌な記憶とか体験を人生の最後に残しておきたくなくてどんどん捨てていく作業を自分自身で無意識にしていっているのかなと不謹慎なことまで考えてしまいました。だって、最後の最後ですよ、とうとう施設に入るしかないという状態にまでなった妹のサトミを見舞いに行くと決めた登美子は、電話でお土産は何がいいかと問うと、「プリン」とサトミが答えるのですが、糖尿病であるサトミには当然食べてはいけないものなのですが登美子は隠して持って行くんです。そして最後に、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
本屋のあかり(Akari Tsuzuki)
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