『デトロイト美術館の奇跡』　原田マハ　新潮文庫　５０６円

この本の著者、原田マハさんは六本木の森美術館の設立準備に関わったり、ニューヨーク近代美術館に勤務されたりした後に、フリーのキュレーターとなられた後に、たくさんアートに関する本を執筆されていますよね。どれもとても面白い本です。アートの裏側がわかるというか、『怖い絵』などの本を書かれています中野京子さんなんかは、一枚の絵そのものに描かれた人の運命や描いた画家自身の話、そしてその時代の人間関係などを細かく教えてくれる、という感じの本なのですが、原田マハさんの場合は、その名画が描かれたのちにその名画が辿った運命や、飾ったキュレーターやその絵をのちの時代に美術館などでみた人たちのお話しをフィクションで描くことが抜群にうまいですよね！この本でも何度もグッときて涙がホロリと出てきちゃうという状態になりました。この方のお兄さんの原田宗典さんも面白いエッセイや小説を書く人で、中高生の時に色々読んだ記憶があります。
この本は、2013年、アメリカ・デトロイト市の財政破綻により、手っ取り早く負債額を埋めるためにデトロイト美術館のピカソやゴッホ、マティスにモネの絵などの所蔵品を売ってしまおうという話が動き出した。という実際に起こった話に細かい登場人物をフィクションとして登場させ、いかにしてこの危機を乗り越えたかを描いている感動の物語です。
この事件の結末としては、地元住民やアメリカ中の財団がこの価値あるコレクションがバラバラに売られずかつ美術館が存続されるように、寄付をしてくれたのです。そして、このデトロイト美術館は市の管理下を離れ独立行政法人となり、市の財政状況に左右されることなく存続していくことができることになりました。まあ、これだけでも感動的なお話しなのですが、ここで原田さんはこの運動のきっかけとなった一人の老人のお話を作ってくれたのです。この部分がとても良かったので読んでみたいです。この美術館にコレクションされているポール・セザンヌの「画家の婦人」というセザンヌの奥さんオルタンスを描いた一枚の肖像画に魅せられ、夫婦で長年このデトロイト美術館に通っていた老人フレッド・ウィルが、ある日、急にこのデトロイト美術館の危機を知り、この美術館のチーフキュレーターであるジェフリーに会いに行き、とった行動が、この大きなうねりを呼ぶのです。ジェフリーにあった時のお話しから・・・・・・