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執筆者:続木あかり
2022.08.28

本屋のあかり紹介本 『アンゲラ・メルケル』

314 『アンゲラ・メルケル』 マリオン・ヴァン・ランテルゲム著 清水珠代訳 東京書籍 1980円

四期、16年の長きにわたりドイツの首相としてヨーロッパを導いたアンゲラ・メルケルさんの評伝です。書いたのはフランス人女性ジャーナリストです。めちゃくちゃ読み応えがあって、めちゃくちゃ面白かったです。たしか、2021年の12月にこの方が退任された直後に、私が朝、新聞をひらいたら一面に両手のゆびをひし形の形に合わせた顔の写っていないピンクのジャケット姿の人の写真が一面にデカデカと載っている宝島社の広告を見つけました。そこには「男でも首相になれるの?ドイツでは子どもたちからこんな質問が出るらしい」と書いてあったのです。もう伝えたいことがすぐにわかりますよね。ガシッと心掴まれました。ちなみにメルケルさんのこの手の癖は、人前に多く出るようになりたくさんの人に見られている時、女性の場合ポケットに手を突っ込んだりもできず、ぶらぶらさせているのもみっともないし、ましてや腕組みするのもどうかということで、両手の親指の指先を合わせ他の四本の指も同じようにそろえたらスッキリ見えたので気に入ったということです。これは彼女のトレードマークとなり後に、マグカップやTシャツなどのグッズにシンボルとして使われるようになったということです。
アンゲラ・カスナーは、1953年西ドイツのハンブルクで生まれました。そしてアンゲラが3歳の時、牧師であった父の仕事の都合で東ドイツのテンプリンへ移住します。ここでの生活がそれからの彼女の政治活動ひいては生き方に多大な影響を及ぼします。とても頭脳明晰で冷静な彼女は、物理学者への道を順調に歩んでいくかに見えたのですが、突如として路線を変更し政治家を志し、そして最終的には一国の首相にまでのぼり詰めたのです。どんな政治家だったかというと、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

また、読んでいて私が大好きだったところはメルケルに常に従い支えてきた二人の女性の部下がいたというところです。一人はエーファ・クリスチャンセンという金髪美人で華やかなスポークスマンで、もう一人はボーイッシュで無口でとっときにくいブルネットのベアーテ・バウマンです。ベアーテさんは、滅多に表には出てきませんがとてもとても重要な人物でメルケルさんのスピーチから文書まで全てにおいて彼女の手が入っている完全に忠実な部下なのです。やはり大きな仕事を成し遂げるには一人ではできませんよね。良い仲間がいてこそです。この3人は、時に周囲の男たちに「ガールズキャンプ」と揶揄されますが、本人たちは全く意に介してはいないようです。そこも好き。最後に、素晴らしいエピソードをひとつ。

2016年1月、メルケルがある難民支援のコンサートに足を運んだ際、そこに偶然メルケルをよく知る人、旧東ドイツの反体制派で有名だった人物で、ベルリンの壁崩壊後の1989年にメルケルが最初に加入した政党の設立者の一人、ライナー・エッペルマン牧師が彼女の後ろの席に座っていました。休憩時間にエッペルマンは彼女を元気づけようと、こう言いました。「今、難民のことで大変だろうね。ヴァーツラフ・ハヴェルのあの言葉を思い浮かべるといい。東ドイツ時代、僕はそれで勇気づけられたし、今の君にもぴったりだよ・・・」共産党政権打倒に活躍し、チェコ共和国初代大統領となったハヴェルの言葉をそらで言って聞かせると、メルケルは考え深い表情で席に戻りました。そして、コンサートが終わると、またメルケルはエッペルマンのところへ行き「ハヴェルの言葉をもう一度言ってくれる?」とお願いしました。そこでエッペルマンは繰り返しました。「希望とは、ひとつのことが良い結果に終わるという信念ではなく、どのような終わりかたであろうと、そのことが意味を持つという確信である。」アンゲラは頷き、ありがとうと言ったのでした。

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