• 本屋のあかり
執筆者:続木あかり
2022.12.26

本屋のあかり紹介本 『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』

『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』 川本直 河出書房新社 2475円

外で読もうと思って持って出かけたら、雨に降られてこんな状態に・・・

いやー、なんとも奇怪な本をようやく読み終わりました。半月くらいかかったかも。情報量が多すぎて苦労するんだけど読み飛ばすには惜しいくらい面白くて。
あの、最初に言っておきますが、この番組を聴いてくださっている奇特な方がたは、きっと私が紹介する本を全て自分で読んでみたいというよりは「へー、そんな本もあるんだ世の中には!面白いな」くらいの気持ちで聞いてくださってるんですよねきっと。または単につけっぱなしのラジオから流れてくるから仕方なくくらいの気持ちで聞いていただいているのだと思います。むしろそうあってほしいくらいの気持ちです。ありがとうございます。なので、私この本についてネタバレします。全部語ります。だって、この本、最後まで説明しないとわからないと思います。ほんとびっくらこく仕掛けがたくさんあって苦労して読み終わった後も、「えっ!、で、どうゆうこと?」ってしばらく茫然としていましたよ私。

単純に、訳してしまうと、要するに、1900年代のアメリカ近代文学史を語る上で欠かせないトルーマン・カポーティ、ゴア・ヴィダル、ノーマン・メイラーと並び称された小説家ジュリアン・バトラーの謎に包まれた生涯を、2017年に覆面作家アンソニー・アンダーソンなる人物が回想録『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』と題して刊行し、その本を翻訳したのが川本直氏であり、その作中に出てくるジュリアン・バトラーの生涯の恋人にして小説の共同製作者であるジョージ・ジョンこそがアンソニー・アンダーソンであると明かされるというお話です。そして作中では、同性愛者であるとは口が裂けても言えないような時代に女装して自由奔放に生きたジュリアンと彼を支えながらも正反対の人生を送ったジョージの数奇な運命を、トルーマン・カポーティ、アンディ・ウォーホル、三島由紀夫まで登場させ、彼らが著したアテネ・ギリシアの時代のお話なども散りばめながらとんでもない迫力で物語が進んでいくんです。例えば、
1942年、アメリカの寄宿学校「フィリップ・エクセター・アカデミー」で初めてジョージ・ジョンとジュリアン・バトラーが出会った時の様子。・・・・・

ここまで聞くと、「まぁ、おもしろいのはわかるけど、一体なにがすごいの?」
と、思われるかと思います。はい。それはですね、この小説の全て、世界観です。ちゃーんとまず最初に「知られざる作家」と題した日本語版序文、そして本文の次に「ジュリアン・バトラーを求めて」と題したあとがき、そしておびただしい数の主要参考文献がちゃんと付いているんです。もうここまで読んだら、というか途中でも私はAmazonもしくは本の家の注文サイトを開いてジュリアン・バトラーと入力して彼の著作とされている『二つの愛』『空が錯乱する』『ネオ・サテュリコン』を是が非でも手に入れたい!と思いました。でも、早まるなかれ、私はこの本を何人かの書評家やYouTuberがオススメしているのを聞いていました。彼らは一様に「最後の最後に大どんでん返しがあるから。これ以上は言えない。」って言っていたのでそれはどこだどこだってワクワクしながら読んでいたんですが、、、ありました、これなのか?って感じですけど最後のページに「本書はフィクションです。」と。
「へ?どこが?ってかどの辺からどこまで?だって、実在の人物確かにいたよね?ジュリアン・バトラーは、確かに調べても出てこなかったから「あ、いないのか」とは思ったけれど、でも参考文献に『二つの愛』宮本陽吉訳、河出書房新社、1965年なんて具合に詳細に書いてあるんですよ~。
そりゃ小説なんだから、「本書はフィクションです」と、言われるまでもなくこちらはそう思って読みますよそりゃあねー。だ・け・ど、全てが作り込まれた架空のファンタジーというのではれば、まだ良いのです。その世界に没入すれば良いので。でも、このお話は、実在の人物といかにもありそうなエピソードとを複雑に組み合わせ、微に入り細に渡り語り進めるので、読んでいるうちにこんな魅力的な人物がいたに違いない、いやいてほしい!と、思えてくるのです。本当にこれだけの質と量でこんな素敵な世界観のお話を見事に作り出した川本直さんに「ブラボー!」って言いたいです。「分厚くて、げっ!って思うかもしれないけど、とにかく読んでみて」ってオススメしていた人の気持ちがよくわかります。私も本好きなお友達に、送りつけてでもいいから読んでもらいたい本でした。

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本屋のあかり(Akari Tsuzuki)
みなさん、こんにちは。絵本と童話本の家 續木あかりです。
この番組は、毎回私が気になった絵本から読み物まで、内容を読んだりしながらご紹介していきます。そして、オススメの一曲も。お気軽に聞いていただけたら嬉しいです。
毎週月曜日の9:30から15分間。木曜日の14:00と土曜日の17:00に再放送があります。

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