• 本屋のあかり
執筆者:続木あかり
2023.04.15

「本屋のあかり」紹介本「オピオイド危機」

『DOPE SICK アメリカを蝕むオピオイド危機』 ベス・メイシー著 神保哲生 訳・解説 光文社未来ライブラリー 1584円     『ペイン・キラー アメリカ全土を中毒の渦に突き落とす、悪魔の処方箋』 バリー・マイヤー著 三木直子訳 晶文社 2090円

私、何年も前から「なんかアメリカって痛み止めの薬で大変なことになっちゃってるみたいだよ。」って噂を聞いていたんです。「オピオイド」っていう言葉も。だけどいったい何がそんなに問題なのか?全然わからなくてそれを教えてくれるような本はないのか?と探していたところ見つけたのです、この2冊。「ドープ・シック」の方はバージニア州ロアノークというところの地元記者をしているベス・メイシーさんが30年にも渡って地道に取材した成果なので、たくさんの人たちが出てきて具体例はたくさんあるんだけれども、ちょっと問題の本質よくわからなくなってきて読みこなせなかったのですが、『ペイン・キラー』を読んで、霧が晴れました。この問題は要するに、サックラー一族が経営するパデュー・ファーマ社で痛みに対する治療に対して「麻薬に対する不必要な恐れが疼痛患者を苦しめている!」ことを解決するためとして、アヘンケシから抽出したり実験室で化学合成した成分を「オピオイド」と称して、たっぷり配合した錠剤を「オキシコンチン」という名前でアメリカ全土に売り歩いて爆発的にヒットさせたのだけれど、なんてことない所詮麻薬なので中毒患者がたくさん出てくることになり、大変なことになっているよ!という話なのでした。私なりに、かなり強引にまとめているけれどこの薬本当にヤバいんですよ。だって、2018年にはトランプ大統領が正式にオピオイド危機を国家的緊急事態と宣言したのですよ。
日本ではこの薬、認められていないので以前GMから鳴り物入りでトヨタの役員に就任した女性がアメリカから父親にこの薬を小包で送ってもらったところ麻薬取締法違反で逮捕されたことがありましたが、文化の違いというかいいのか悪いのか日本では「痛み」というものに対して「我慢すべき」という風潮がいまだにあるので先進国では珍しくオピオイドの影響は受けていないようです。また、私がこの問題で一番気になったのは全てを仕切っている闇の支配者ともいうべきサックラー一族ののしあがり方についてでした。アーサー・サックラー博士は1940年代以降医薬品の製造、マーケティング、広告、販売のあらゆる側面を網羅する広大な製薬会社を作り上げ、弟のモーティマとレイモンドも支配しながら一大帝国を作り上げたのです。そしてその金を惜しみもなく使い世界の名だたる有名美術館や大学に寄付をすることで社会的な名誉を得ようとする、いわゆる世間体ロンダリングをしまくるのでした。しかし、2000年代に入り同時多発的にアメリカ全土でオピオイドによる中毒患者や死亡者が増え続けていくことで巧みにお金儲けをしつつ自らの責任からは逃げ続けていたこのサックラー一族に対する世間の報復が始まるのです。

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本屋のあかり(Akari Tsuzuki)
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