多彩な技法で描かれた絵本たち

今回ご紹介する本は、0歳から3歳くらいの幼児向け絵本4冊です。
『児童文学論』という本に「幼児と絵との関係は、まずその絵からストーリーをくみとることにある。子どもは、自分では読むことのできない物語をその絵が語ってくれることを要求する。絵はかれらにとっては読書の最初の入口であり絵を通して子どもの興味はひきつけられる。」と書かれていますが、今日ご紹介したいのは、紙に鉛筆や絵の具で描かれた絵というものではなく、印刷技術の発達した現代ならではだな、と思う、絵本たちです。
1冊目は『のりたいな』みやまつともみ作 福音館書店 990円です。この絵本は、貼り絵の絵本です。去年の玉村絵本原画展で、原画を見て、すごーくキレイで良くできた作品で、驚きました。ただただいろんなクルマが出てきて「コンクリートミキサーしゃ のりたいな ミキサーを くるくる まわして こうじげんばへ しゅっぱーつ」なんて書いてあります。車体を一枚の紙ではなく細かなグラデーションを感じる様々な色の紙をブロックのように繋いでいたり、薄い和紙でガラス面を表現し、その奥の座席が透けて見えるようになっています。温かみを感じる、思わず触ってみたくなる質感の絵本です。
2冊目は『スープになりました』彦坂有紀・もりといずみ 講談社 1,320円 です。この絵本は、彦坂木版工房として活動する夫婦ユニットによる木版画の絵本です。絵本もたくさん出版されていますが、それ以外にも広告や食品のパッケージ、雑貨のイラストなどでも幅広く活動していたり、木版のワークショップイベントなども企画されているそうです。よく、本物みたいな絵とか美味しそうに描けているとか聞きますが、いやいやこの人たちの作り出すたべものは、私が思うに「こりゃ絵の負けだな!」って感じなんです。絵を見ているとほのかに見える木の木目が良い質感を醸し出していてですね~、より本物っぽいというか、美味しそうに見えるんですよこれが。特に私のイチオシはこの『スープになりました』で、ページを捲ると、にんじんが で、一本のにんじんが描かれ、次のページにはカップに入ったポタージュスープの絵で、とろーりスープになりました ごくっ という感じで、ジャガイモ、ほうれんそう、とうもろこしがそれぞれスープになるんです。これは離乳食が始まった赤ちゃんにピッタリなのでは?と思いおすすめしています。最後のページにはフランスパンが出てきて、それを切って、スープに浸して ふーふー ぱくっ! っとしてからの ごちそうさま。
3冊目は『たいこ』樋勝朋巳ぶん・え 福音館書店 900円です。こちらは一転して、銅版画の絵本です。樋勝さんは多摩美術大学を卒業後、デザイン会社勤務を経て銅版画家として活動を始めます。私がこの方の銅版画を見たのは『きょうはマラカスのひ』という絵本の原画展でしたが、描かれる登場人物がいつもタイツをはいたりロンパースのようなものを着ていて、銅版の線の細さを活かしたもじゃもじゃ頭の子など、みんな可愛らしいキャラクターなんです。私がおすすめしたい『たいこ』にもタイツのイヌの子や男の子が出てくるのですが、途中に出てくるワニの子が、銅版の腐食を活かした模様になっていて絶妙です。そして、なによりお話しがとても良いと思いました。タイツのイヌの子が大きなたいこをトントントトトン トントントトトン と、叩いていると「なかまにいれて」と男の子「いいよ」 そして一緒にトントンポコポコ 叩いていると 長靴履いたカエルの子が「なかまにいれて」「いいよ」 そんなこんなでみんなで太鼓を叩いていると楽しくなって大きな音で トンポコペタボン トントンポコポコ ペタペタボーーン するとワニさん登場 うるさいぞー ガオーガオー とみんなを蹴散らしたはいいけど、ポツンと残った太鼓を前に ゴンと叩いてみてみると、なにやら楽しくなってきてゴンゴンガオー ゴンゴンガオー そしたらみんながそろそろとやってきてトンゴンボン と一緒に叩いてみたら、みんなでサイコー トン ポコ ペタ ボン ガオー ゴン ワオー!!!!
2・3歳くらいになると、自我が目覚め、強く自己主張をするようになり、お友達とのやりとりや喧嘩に頭を悩ませる親が増えてきます。そんな時にこの絵本をおすすめするとすごく喜ばれます。
4冊めは『ざっそうの名前』長尾玲子さく 福音館書店 1,210円です。この絵本は刺繍の絵本です。この方、ガチですよ!東京YMCAデザイン研究所デザイン学科卒業後、デンマーク・スカルス手工芸学校で刺繍を、オーストラリアNMITでイラストレーションを学ばれています。他に「クリスマス・イブのおはなし全3冊」なども出されていますが、私のおすすめは『ざっそうの名前』です。世の中に刺繍をされている方がたっくさんいるのは知っています。以前、刺繍作家の宮脇綾子さんの作品を紹介しましたが、あの時も妙齢の刺繍を趣味とされているであろう方々で会場はいっぱいでした。しかしですね、バラやラベンダーなど名のある花々をではなく野に咲き、忌み嫌われることの多い雑草をですね、こんなに魅力的に刺繍で表現されている人が他にいるでしょうか?公園に行き、そこらに咲く草を見ながらサッとその姿を写し取ってはいできました、なんてことはできませんから、長尾さんは、描きたいシーンをまず頭で考えて、「できそうだな」と思ったら、スケッチブックにスケッチします。どんどん整えてペンを入れて、色の薄い布を使うときはライトボックスを使い、色の濃い布を使うときはチャコペーパーで、布に下書きを写します。それからどうしても譲れない色を先に決め、刺繍を進めながら他の色を決めて刺してゆくそうです。
この絵本のお話しは、ある夏の日に、おじいちゃんの家にスイカを持って遊びに行った太郎くんが庭の水道でスイカを冷やしている間に、おじいちゃんにそこに咲くたくさんの雑草の名前を教えてもらう、という話です。ヒメジョオン、ツユクサ、カタバミ、オオバコ、ハキダメギク、ヒルガオ、ヤブガラシ、ドクダミ、他にもたーくさん出てくるけれど、みんなあーみたことあるなってわかるほど特徴をよく捉えていてそれでいてなんか可愛らしい。まさにひと針ひと針、丁寧にそれこそ糸で描いていったんだろうなぁ、と思うとその根気に頭が下がります。それが1000円ちょっとで手に入れられるなんて、ありがとうございます。って感じです。
今回ご紹介した4冊は、幼児向け絵本とは言っていますが、決してそれなりの年齢の子どもに向けたそれなりの絵本ではありません。一切妥協のない、完成度の高い作品だと思います。胸を張って全世代の方におすすめいたします。
本屋のあかり(Akari Tsuzuki)
みなさん、こんにちは。絵本と童話本の家 續木あかりです。
この番組は、毎回私が気になった絵本から読み物まで、内容を読んだりしながらご紹介していきます。そして、オススメの一曲も。お気軽に聞いていただけたら嬉しいです。
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