• 本屋のあかり
執筆者:続木あかり
2022.06.04

「本屋のあかり」紹介本 『夜が明ける』

『夜が明ける』 西加奈子 新潮社 ¥2035

まず、この表紙の絵がすごいんです。男が上を向いて歯を食いしばっている様子を、首元から目の下までの範囲で描いていて、青筋が立ち歯茎が剥き出しですごい迫力です。いつも、西加奈子さんの小説は彼女自身が絵を描いているのですが今回はインパクト大で、本屋さんで思わず手に取ってしまいました。彼女の小説は結構読んでいてこの番組でも紹介したことがあると思うのですが、私は今回のこの小説が一番好きです。
お話しは、終始名前の出てこない俺と深沢暁(あきら)が15歳の初夏に学校で出会うことから始まります。その時、父の影響で映画が好きだった俺は、暁が「男たちの朝」というフィンランド映画作品に出ているアキ・マケライネンという俳優に生写しだと思い、彼にそれを告げビデオまで貸します。それを機に、あきらは周囲に「アキと呼ぶように。」と伝え、アキ・マケライネンとして人生を歩んでいくのです。そして、俺は俺で、奨学金を得て大学に入り、卒業後にテレビ制作会社に入り苦労するというお話しです。「えっ!なにそれ。」って感じのあらすじなんですが、そうとしか言えないのです。もう中身が濃すぎてどう説明したらいいのかわかりません。とにかく読んでみて!って感じです。
この小説は今の社会問題、例えば「貧困」「虐待」「精神疾患」「パワハラ」などについて直球で書いていてドーンと胸に突き刺さるので読んでいる間は、途中でご飯食べたり、仕事したりしててもずーっと本の世界から抜け出せずに、この世の終わりのような気分になりました。西加奈子さんはインタヴューで「当事者ではない自分が書いてもいいものだろうかとすごく迷ったが、5年間かけて描き切った」と語っていましたが、当事者が語るようなルポではないが故に我が身に置き換えて想像してしまうような、真実味があって苦しくなりました。きっとこんな話私が気づかないだけでそこらじゅうにゴロゴロしているんだけど、そこに目を逸らすな!って叱られている気分になりました。中でも私は、俺の憧れの女の子として登場する遠峰(とおみね)さんが気になりました。彼女は、高校生の時からアルバイトをしていて、プロ顔負けのとっても面白い漫画を描いていたのに結局、大学にも行かず、漫画家にもならずに働き始めます。その後、彼女が描いていた漫画を同級生の子が自分の作品としてSNSで発表してしまうという事件が起こり、俺は居ても立っても居られずどうにかしようと遠峰さんに詰め寄ります。その時に彼女が言った言葉が刺さりました。聞いてください。・・・・・

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本屋のあかり(Akari Tsuzuki)
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